日本人は、四季を感じる生活空間の中に心のやすらぎを求め、建築の中に自然との調和を美しく表現してまいりました。しかし今、東京の現代社会においては、大切なやすらぎを得る環境を作り出すことは難しい状況です。                      
 高速中央環状線に乗ると、右も左も果てしなくビル郡が続き、まさに東京砂漠が広がっています。大都市東京は、もはや限られた場所でしかやすらぎを得る事はできません。
 近代の建築に使われている新しい建材や構造は、伝統的な侘びや寂を感じる事がどうしても希薄になり、外国人が住まいに日本間をアート的に造ったような異様な感じになりかねません。日本間は自然と調和させる事が必要で、廊下があり濡れ縁から庭へと自然との一体感を求めています。  数寄屋造りを代表する建築には茶室があります。茶室に使われる素材は自然の侭を旨とし侘びや寂がきわめて洗練された形で構成され創造された日本を代表する伝統的建築文化と云えるものでしょう。
 私は職人時代、藤沢市鵠沼の屋敷と熱海の別荘で、茶室を手懸けた事があります。これに際し当時、母方の甥が勤めていた鎌倉の「宋偏流」(千宗旦の門人山田宗偏を祖とする)千家派家元の処へこれ幸いとお邪魔をし、お屋敷の茶室や水屋を拝見させて頂きました。技術者としての目で事細かく各部の収まりや、自然の素材である杉皮・萩・芳や竹・香木等の味わいを見事各所に使いこなす茶室の姿に魅了された事を思い起こします。
 又鵠沼の屋敷をてがけた時、私の父が流れ造り「一間社」神殿様式のお稲荷さんを造りました。屋根は銅葺きで、柱は小屋を支える斗組と言って二重三重に組み手を重ねた本格的な造り方です。大工とスズメは軒で泣く言いますが、とても手間のかかる物でした。
 日本の建築物で、最も優れた建物は社寺建築である事は言うまでも有りません。世界的に言っても我が国の伝統的な創造から創り上げられた美、四季の変化にともなう自然との美事な調和は、最も優れた建物と言っても過言では無いものと思います。
 だからこそ、近代化された都市の中で生活していながらも、自然や優れた建物に触れる時たちは心にやすらぎを感じる事が出来るのではないでしょうか。
四季から生まれた伝統文化を基本として、建築を大切に考えます。
                                
(志賀龍夫)


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